葵くんとシュレーディンガーの彼女たち

葵くんとシュレーディンガーの彼女たち 渡来ななみ

☆☆☆☆☆
 高校生の少年・葵には、人に言えない大きな秘密があった。それは眠るたびに並行世界を行き来してしまうというものだった。そしてそこにはそれぞれ別の幼馴染がいた。いつも元気いっぱいの真宝(まほう)。やさしいお姉さんのような微笑(ほえむ)。そんな幼馴染が二人いる生活がずっと続くと思っていた。ところが、ある些細なきっかけでふたつの世界は「重なりあい」を始めて――。
 『天体少年。さよならの軌道、さかさまの七夜』でデビューした渡来ななみ先生の新作『葵くんとシュレーディンガ―の彼女たち』です。これはまずまずな面白さでした。読んだ後の率直な感想を言うと「面白かった。けど、どこかもやもやした」というの本音です。
 並行世界が舞台でその世界を行き来してしまう体質の葵。それぞれの世界をホエ界、マホ界と名つけているわけですが、葵がホエ界にいるときは「もう一人の葵」はマホ界に、逆に葵がマホ界にいるときは「もう一人の葵」はホエ界にいるという関係が面白かったですね。まあ、物語を通して「もう一人の葵」はなかなか不憫でしたが(苦笑)。
 ストーリー的にはキャラクターの魅力や掛け合い云々よりは、重なろうとしているふたつの世界がどのような結末を迎えるのかが気になってどんどんと読み進めていた感じでした。その結末については色々と賛否はわかれそうですね。
 個人的には結末自体は今回のようなものでも良いかなとは思うのですが、それに至るまでの中盤からの終盤にかけての展開がどうにも もやもやしました。自分でも上手くは説明できないのですが、たぶん(以下一応反転)――ふたつの世界の重要な選択を迫られているはずなのに、どこかホエ界がないがしろにされていたように感じてしまったのが原因なんじゃないかと
 まとめ。そんな感じで「面白かったけど、ちょっともやもやする部分もあった」作品。けっこう人を選ぶのかもしれません。